日本人民共和国憲法・草案〔日本共産党, 1946-06-29〕

6月20日,第90回帝国議会開院,同日「帝国憲法改正案」提出*1,28日,衆議院帝国憲法改正案委員会設置*2
そんな流れの中で発表されたもの*3。そのせいもあってか,章立てなどは見事に「憲法改正草案(現・日本国憲法)」の影響を受けてる。

日本人民共和国憲法草案

前文

天皇制支配体制によつてもたらされたものは、無謀な帝国主義侵略戦争、人類の生命と財産の大規模な破壊、人民大衆の悲惨にみちた窮乏と飢餓とであつた。この天皇制は欽定憲法によつて法制化されてゐた様に、天皇が絶対権力を握り人民の権利を徹底的に剥奪した。それは特権身分である天皇を頂点として、軍閥と官僚によつて武装され、資本家地主のための搾取と抑圧の体制として、勤労人民に君臨し、政治的には奴隷的無権利状態を、経済的には植民地的に低い生活水準を、文化的には蒙昧と偏見と迷信と盲従とを強制し、無限の苦痛をあたへてきた。これに反対する人民の声は、死と牢獄とをもつて威嚇され弾圧された。この専制的政治制度は日本民族の自由と福祉とに決定的に相反する。同時にそれは近隣植民地・半植民地諸国の解放にたいする最大の障害であつた。
われらは苦難の現実を通じて、このやうな汚辱と苦痛にみちた専制政治を廃棄し、人民に主権をおく民主主義的制度を建設することが急務であると確信する。この方向こそかつて天皇制のもとにひとしく呻吟してきた日本の人民と近隣諸国人民との相互の自由と繁栄にもとづく友愛を決定的に強めるものである。
ここにわれらは、人民の間から選ばれた代表を通じて人民のための政治が行はれるところの人民共和政体の採択を宣言し、この憲法を決定するものである。天皇制はそれがどんな形をとらうとも、人民の民主主義体制とは絶対に相容れない。天皇制の廃止、寄生地主的土地所有制の廃絶と財閥的独占資本の解体、基本的人権の確立、人民の政治的自由の保障、人民の経済的福祉の擁護—これらに基調をおく本憲法こそ、日本人民の民主主義的発展と幸福の真の保障となるものである。日本人民の圧倒的多数を占める勤労人民大衆を基盤とするこの人民的民主主義体制だけが帝国主義者のくはだてる専制抑圧政治の復活と侵略戦争への野望とを防止し、人民の窮極的解放への道を確実にする。それは人民の民主的祖国としての日本の独立を完成させ、われらの国は国際社会に名誉ある当然の位置を占めるだらう。日本人民はこの憲法に導かれつつ、政治的恐怖と経済的窮乏と文化的貧困からの完全な解放をめざし、全世界の民主主義的な平和愛好国家との恒久の親睦をかため、世界の平和、人類の無限の向上のために、高邁な正義と人道を守りぬくことを誓ふものである。

第一章 日本人民共和国
第1条
日本国は人民共和制国家である。
第2条
日本人民共和国の主権は人民にある。主権は憲法に則つて行使される。
第3条
日本人民共和国の政治は人民の自由な意志にもとづいて選出される議会を基礎として運営される。
第4条
日本人民共和国の経済は封建的寄生的土地所有制の廃止、財閥的独占資本の解体、重要企業ならびに金融機関の人民共和政府による民主主義的規制にもとづき、人民生活の安定と向上とを目的として運営される。
第5条
日本人民共和国はすべての平和愛好諸国と緊密に協力し、民主主義的国際平和機構に参加し、どんな侵略戦争をも支持せず、またこれに参加しない。
第二章 人民の基本的権利と義務
第6条
日本人民共和国のすべての人民は法律の前に平等であり、すべての基本的権利を享有する。
第7条

この憲法の保障する基本的人権は不可侵の権利であつて、これを犯す法律を制定し、命令を発することはできない。

政府が憲法によつて保障された基本的人権を侵害する行為をなし、またかやうな命令を発した場合は人民はこれに服従する義務を負はない。

第8条
人民は日本人民共和国の法律と自己の良心以外にはどんな権威またはどんな特定の個人にたいしても服従または尊敬を強要されることはない。人種、民族、性別、信教、身分または門地による政治的経済的または社会的特権はすべて廃止され今後設置されえない。皇族、華族の制度はこれを廃止する。称号、勲章その他の栄典はどんな特権をも伴はない。かやうな栄典の授与はあたへられた者にたいしてのみ効力をもつ。
第9条

人民は民主主義的な一切の言論、出版、集合、結社の自由をもち、労働争議および示威行進の完全な自由を認められる。

この権利を保障するために民主主義的政党ならびに大衆団体にたいし印刷所、用紙、公共建築物、通信手段その他この権利を行使するために必要な物質的条件を提供する。

民主主義的大衆団体の国際的聯繋の自由は保障され助成される。

第10条
人民に信仰と良心の自由を保障するため宗教と国家、宗教と学校は分離され、宗教的礼拝、布教の自由とともに反宗教的宣伝の自由もまた保障される。
第11条
人民は居住、移転、国外への移住、国籍の離脱ならびに職業選択の自由をもつ。
第12条
人民の住宅の不可侵と通信の秘密は法律によつて保護される。
第13条

人民は身体の不可侵を保障され、何人も裁判所の決定または検事の同意なしには逮捕拘禁されることはない。

公務員による拷問および残虐な行為は絶対に禁止される。

第14条
何人も裁判所で裁判を受ける権利を奪はれず、裁判は迅速公平でなければならない。
第15条
人民を抑留、拘禁した場合、当該機関は例外なく即時家族もしくは本人の指名する個人に通知しなければならない。また本人の要求があれば拘束の理由は直ちに本人および弁護人の出席する公開の法廷で明示されなくてはならない。
第16条
何人も自己に不利益な供述をすることを強要されない。強制、拷問または脅迫のもとでの自白もしくは不当に長期にわたる抑留または拘禁の後の自白は、これを証拠とすることはできない。何人も自己に不利益な自白だけによつては有罪とされず、または刑罰を科せられない。
第17条
被告人はどんな場合にも弁護の権利を保障され、事件の資料について精通する権利と法廷において自国語で陳述する権利とを保障される。
第18条
どんな行為もあらかじめ法律によつてこれにたいする罰則を定めたものでなければ刑罰を科せられない。刑罰は犯罪の重要さに応じて科せられる。何人も同一の行為のために二度処罰されることはない。
第19条
死刑はこれを廃止する。
第20条
国家は裁判の結果無罪の宣告をうけた被告人にたいしては精神上、物質上の損害を賠償しなければならない。
第21条

受刑者の取扱ひは人道的でなければならない。受刑者の労賃と労働時間は一般企業の労働条件を基準として決定される。

女子の被拘禁者にたいしては特にその生理的特性にもとづく給養を保障し、妊娠、分娩の際には衛生的処置を保障しなければならない。

第22条
刑罰は受刑者の共和国市民としての社会的再教育を目的とする。受刑者にたいして合法的に科された刑罰を更に加重するやうな取扱を行つた公務員はその責任を問はれる。
第23条
受刑者を含む被拘禁者にたいして進歩的民主主義的出版物の看読を禁止することはできない。
第24条
勤労にもとづく財産および市民としての生活に必要な財産の使用・受益・処分は法律によつて保障され、その財産は相続を認められる。社会的生産手段の所有は公共の福祉に従属する。財産権は公共の福祉のために必要な場合には法律によつて制限される。
第25条
人民は性別を問はずすべての国家機関の公務員に選任される権利をもつ。
第26条
人民は個人または団体の利害に関しすべての公共機関に口頭または文書で請願または要求を提出する権利をもつ。何人もこの請願または要求をしたためにどんな差別待遇もうけることはない。
第27条
女子は法律的・経済的・社会的および文化的諸分野で男子と完全に平等の権利をもつ。
第28条
婚姻は両性の合意によつてのみ成立しかつ男女が平等の権利をもつ完全な一夫一婦を基本とし純潔な家族生活の建設を目的とする。社会生活において家長および男子の専横を可能とする非民主的な戸主制ならびに家督相続制はこれを廃止する。夫婦ならびに親族生活において女子にたいする圧迫と無権利とをもたらす法律はすべて廃止される。
第29条
寡婦およびすべての生児の生活と権利は国家および公共団体によつて十分に保護される。
第30条
人民は労働の権利をもつ。すなはち労働の質と量にふさはしい支払をうける仕事につく権利をもつ。この権利は民主主義的経済政策にもとづく失業の防止、奴隷的雇傭関係および労働条件の排除、同一労働に対する同一賃銀の原則、生活費を基準とする最低賃銀制の設定によつて現実に確保され、労働法規によつて保障される。
第31条
勤労者の団結権、団体交渉・団体協約その他団体行動をする権利は保障される。被傭者は企業の経営に参加する権利をもつ。
第32条
労働の期間および条件は労働者の健康、人格的威厳または家庭生活を破壊するものであつてはならない。十八歳以下の未成年者はその身心の発達を阻害する労働にたいして保護され、十六歳以下の幼少年労働は禁止される。
第33条
人民は休息の権利をもつ。この権利は一週四十時間労働制、一週一日・一年二週間以上の有給休暇制、休養のための諸施設ならびに労働諸法規によつて保障される。
第34条
勤労婦人は国家および雇主からその生理的特性にたいする配慮をうけ、産前産後の有給休暇、母子健康相談所、産院、保育所等の設備によつてその労働と休息の権利を保障される。
第35条
人民は老年、疾病、労働災害その他労働能力の喪失および失業の場合に物質的保障をうける権利をもつ。この権利は国家または雇主の負担による労働災害予防設備、社会保険制度の発展、無料施療をはじめとする広汎な療養施設によつて保障される。
第36条
家のない人民は国家から住宅を保障される権利をもつ。この権利は国家による新住宅の大量建設、遊休大建築物、大邸宅の開放、借家人の保護によつて保障される。
第37条
企業家はその経営の便宜のために被傭者の就学を妨げることはできない。
第38条
日本人民共和国は人民の科学的研究、芸術的創造の自由を保障し、人民のあらゆる才能と創意の発展を期し、研究所、実験所、専門的教育機関、文化芸術諸施設を広汎に設置する。
第39条
日本人民共和国は民主主義的活動、民族解放運動、学術的活動のゆゑに追究される外国人にたいして国内避難権を与へる。
第40条
日本人民共和国に居住する外国人の必要な権利は法律によつて保障される。
第41条
人民は日本人民共和国の憲法を遵守し、法律を履行し、社会的義務を励行し、共同生活の諸規則に準拠する義務をもつ。
第三章 国会
第42条
日本人民共和国の最高の国家機関は国会である。
第43条
国会は主権を管理し人民にたいして責任を負ふ。
第44条
国会はつぎの事項を管掌する。
  1. 内外国政に関する基本方策の決定
  2. 憲法の実行の監視
  3. 憲法の変更または修正
  4. 法律の制定
  5. 予算案の審議と確認
  6. 政府首席の任免と首席による政府員の任免の確認
  7. 国会常任幹事会の選挙、国会休会中において常任幹事会の発布した諸法規の確認
  8. 人民から提出された請願書の裁決
  9. 日本人民共和国最高検事局検事の任命
  10. 会計検査院長の任命
  11. 各種専門委員会の設置
第45条
国会は法律の定める定員数からなる代議員によつて構成される一院制議会である。
第46条
日本人民共和国の立法権は国会だけがこれを行使する。
第47条
代議員として選挙され、かつ代議員を選挙する資格は、政治上の権利を有する十八歳以上のすべての男女に与へられる。選挙権、被選挙権は定住、資産、信教、性別、民族、教育その他の社会的条件によるどんな差別、制限をも加へられない。
第48条
代議員の選挙は比例代表制にもとづき平等、直接、秘密、普通選挙によつて行はれる。
第49条
代議員はその選挙区の選挙民にたいして報告の義務を負ふ。選挙民は法律の規定に従つて代議員を召還することができる。
第50条
国会は四年の任期をもつて選挙される。
第51条
国会は代議員の資格を審議する資格審査委員会を選挙する。国会は資格審査委員会の提議により個々の代議員の資格の承認または選挙の無効を決定する。
第52条
国会は必要と認めた場合にはすべての問題に関して査問委員会および検査委員会を任命する。すべての機関および公務員はこれらの委員会の要求に応じて必要な資料と書類を提供する義務を持つ。
第53条
国会の会期は年二回を原則とする。臨時国会は国会常任幹事会の決定および代議員三分の二以上の要求によつて召集される。
第54条
国会は代議員数の三分の二以上の出席によつて成立する。
第55条
法律は国会において代議員の単純多数決によつて成立し、国会常任幹事会議長および書記の署名をもつて公布される。
第56条
国会における議事はすべて公開とする。
第57条
国会は議長一名、副議長二名を選挙し、議事の進行、国会内の秩序の維持にあたらせる。
第58条
代議員は国会の同意がなくては逮捕されない。国会の休会中は国会常任幹事会の承認を必要とし次期国会の同意を要する。
第59条
国会には代議員の三分の二以上の決議にもとづき解散を告示する権限がある。
第60条
国会の任期が満了するかまたは国会が解散された場合には、四十日以内に総選挙が施行される。
第61条
総選挙施行後三十日以内に前国会常任幹事会は新国会を召集する。
第62条
国会は二十五名の国会常任幹事会を選挙する。
第63条
国会常任幹事会は議長および副議長各一名を選挙し、議長は日本人民共和国を代表する。
第64条
国会常任幹事会はつぎの事項を管掌する。
  1. 国会の召集および解散、総選挙施行の公告
  2. 国会休会中政府首席による政府員の任免の確認 ただしこれについては国会の事後確認を必要とする
  3. 国会の決定による人民投票の施行の公告
  4. 政府の決定および命令のうち法律に合致しないものの廃止
  5. 赦免権の行使
  6. 国際条約の批准
  7. 外国における日本人民共和国全権代表の任命および召還
  8. 日本駐剳外国代表者の信任状および解任状の受理
  9. 民主的栄典の授与
第65条
国会の任期が満了するかまたは国会が解散された場合には、国会常任幹事会は新たに選挙された国会によつて、新国会常任幹事会が選出されるまでこの権限を保持する。
第四章 政府
第66条
政府は日本人民共和国の最高の行政機関である。政府首席は国会によつて任命され、首席の指名にもとづき国会の承認をえた政府員とともに政府を構成する。
第67条
政府は国会にたいして責任を負ひ、国会の休会中は国会常任幹事会にたいして責任を負ふ。各政府員は政府の一般政策について全体的に、個人的行動については個人的に責任を問はれる。
第68条
国会が政府にたいする不信任案を採択した場合には政府は総辞職する。
第69条
政府は次の事項を管掌する。
  1. 一般的中央行政事務の遂行のために現行諸法規にもとづいて決定又は命令を発布し、かつその執行を検査すること
  2. 各省およびその管轄下にある国家の諸機関を統一的に指導すること
  3. 日本人民共和国の発展、公共の秩序の維持および基本的人権の保障のために必要な諸措置の施行
  4. 各省に附属する特別委員会または事務局の組織
  5. 対外関係の一般的指導
  6. 政府の権限に関する問題につき各省の訓令または指令もしくは地方議会の決定または命令で国法に合致しないものの取消
第70条

政府の命令は日本人民共和国の全領域にわたつて施行される。

政府の命令の公布には当該政府員の署名と首席の副署とを必要とする。

第五章 国家財政
第71条
国家財政の処理には国会の議決を必要とする。
第72条
租税の賦課および徴収は変更されない限り一年を限つて効力をもつ。消費税はこれを廃止する。
第73条
国費の支出または国家債務の負担は国会の議決を経るを必要とする。
第74条
政府は毎会計年度の予算を作成し、国会の審議をうけ承認をえなければならない。事業計画については政府は毎年事業計画書を作成し、国会に提出しなければならない。
第75条

国家財政の決算はすべて毎年会計検査院の検査をうけ、政府は次年度にその検査報告とともにこれを国会に提出しなければならない。

会計検査院長は国会によつて任命され、職務の遂行につき国会に責任を負ふ。

会計検査院の組織と権限は法律によつて定められる。

第六章 地方制度
第76条
日本人民共和国はその領土内に、地方制度(村、町、市、県等)を認める。地方制度は法律にもとづいて運営される。
第77条
地方制度は第47条、第48条を基準とする選挙法によつて選挙される地方議会(村会、町会、市会、県会等)を基礎として運営される。
第78条
各級の地方議会はそれぞれの行政機関を選任する。行政機関はそれぞれの地方議会ならびに上級機関に責任を負ふ。
第79条
各級の地方議会はそれぞれの行政機関の活動を統轄し地方予算を審議、確認し、法律の範囲内において地方的問題を議決しまたは命令を発布する。
第80条
政府機関の地方支部の活動は地方の権力機関の行政と合致するやう法律によつて調整される。
第七章 司法
第81条
日本人民共和国における裁判は人民の基本的権利の尊重を根本精神とし、人民の名により最高裁判所地方裁判所、地区裁判所によつて行はれる。
第82条
裁判はこれを公開しその審理には陪審員の参加が必要である。
第83条
日本人民共和国の最高裁判機関は最高裁判所である。
第84条
最高裁判所の裁判官は国会の推薦にもとづき人民の信任投票によつて五年の任期をもつて選任される。
第85条
下級裁判所の裁判官はそれぞれ地方の議会の推薦にもとづきそれぞれの地域の人民の信任投票によつて四年の任期をもつて選任される。
第86条
裁判官は独立的であり法律にのみ服従する。
第87条
検事の任務は人民が法律を正確に遵守するのを監督するにある。
第88条
最高検事局の検事は五年の任期をもつて国会により任命される。
第89条
下級検事局の検事は最高検事局の検事の確認を経て上級検事局がこれを任命する。
第90条
検事局機関は、最高検事局の検事にだけ服従し、一切の地方機関から独立してその職務を行ふ。
第八章 公務員
第91条
公務員は民主主義と全人民の利益に奉仕し官僚主義に陥つてはならない。
第92条

公務員は廉潔を旨とし、一切の汚辱行為、職権濫用行為をすることを厳禁される。

国家は公務員およびその家族に必要な生活手段を保障する。

第93条
行政機関の公務員のうち議会によつて任免されるもの以外はその行政機関の長が任免する。
第94条
人民は公務員の罷免を議会その他の公共機関に要求する権利をもつ。
第95条
議会は公務員の活動を監視し、議会の確認によつて執行機関の長が任免する公務員にたいしても罷免を要求する権利をもつ。
第96条
警察署の責任者はその署の管轄区域内の人民によつて選出され、警察制度が官僚的支配機構として固着することを阻止する。
第九章 憲法改正
第97条
日本人民共和国憲法の改正発案権は国会に属する。
第98条
日本人民共和国の地方上級議会は、代議員の三分の二以上の同意をもつて憲法改正の提案権をもつ。
第99条
日本人民共和国の憲法の改正は、国会代議員の三分の二以上の出席によつて開会される国会において、三分の二以上の多数をもつて採択されねばならない。
第100条
日本人民共和国の共和政体の破棄および特権的身分制度の復活は憲法改正の対象となりえない。

個人的なポイント(ツボ)

  • 全100条でキリがいい:何となくキモチいい。全く意味はないが…
  • 時期的な問題もあってか当時の日本の実情に沿った内容(それなりに)。端的にはプロレタリア革命,プロレタリア政権の印象は強いものの,それが貫徹されてはいない感じ。
  • 封建的寄生的土地所有制だの,財閥的独占資本だの,そして何より,そこかしこにちりばめられて有り難さが見事なまでに滅失している民主主義的が格別。価値観が前面に押し出されている
  • 天皇制は当然廃止〔8条
  • 栄典も廃止…かと思いきや,民主的栄典は授与されうる(一身専属で特権は伴わない〔8条〕)。尤も名誉議長という職がある政党の発案なので,決しておかいことではない。が,個人的には「社会主義共産主義)」と「栄典」はイマイチそぐわない気がする。
  • 死刑廃止19条〕,陪審制〔82条
  • 一院制議会,完全比例代表制48条〕,有権者は18歳以上〔47条〕:完全比例代表制は今でも貫徹されている。将来—現在—の窮状を既に見越していた?
  • 消費税廃止〔72条〕:これも貫徹。先見の明,または一貫性は称賛に値する。
  • 日本国憲法と比較して,立法府—議会—の行政府—政府—に対する優位性が非常に強い。日本国憲法との際立った差異は,「日本人民共和国」の代表が国会常任幹事会議長〔63条〕であり(他に日本国憲法で内閣の助言と承認に基づき天皇の国事行為として行われるものも議会の権能となる),他に最高検検事の任命〔88条〕,判事の推薦—人民の信任投票が必要—〔84条85条〕など三権は議会を中心としている。
  • 憲法改正案の提案は国会の他,地方議会にも可能〔98条〕で,憲法改正は国会での採択のみによって行われる(国民投票なし)〔99条
  • 侵略戦争の不支持・不参加は表明するものの〔5条〕,戦力・軍隊について一切の規定がない—不保持について謳わず,保持を前提とした規定もなく,加えて人民の軍隊保持権についても触れていない。共産党が「人民解放軍」を持つことを妨げる規定もないが,同時に他政党が同様の党軍を持つことも妨げられないような…*4

*1:先立つ4月17日,既に「憲法改正草案」は発表済み

*2:著名な吉田茂首相の「自衛戦争も放棄」の答弁は26日

*3:決定は前日28日

*4:中国の「人民解放軍」は国軍ではなく中国共産党の持つ「人民の軍隊」。中華人民共和国は実質一党独裁だが,形式上は「民主党派」と呼ばれる諸党派がある。これらの党派の軍隊を保持しているか否か—おそらく保持していない—,また共産党民主党派を包括する「人民」の軍隊保持権について,中国憲法に何らかの規定があるか否かについては不知。