新憲法起草委員会・要綱 第一次素案〔自由民主党, 2005-07-07〕
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前文
1.前文作成の指針
- 新たな憲法前文の草案は、自由民主党の主義主張を堂々と述べながら、広く国民の共感を得る内容とする。
- 現行憲法から継承する基本理念(国民主権、基本的人権、平和主義)をより簡潔に記述し直すとともに、現代および未来の国際社会における日本の国家目標を高く掲げる。
- 現行憲法に欠いている日本の国土、自然、歴史、文化など国の生成発展についての記述を加え、国民が誇り得る前文とする。
- 「なぜ今、新憲法を制定するのか」という意義を前文で明らかにする。戦後60年の時代の進展に応じて、日本史上初めて国民みずから主体的に憲法を定めることを宣言する。
- 現行前文の文体が翻訳調、生硬、難解であるのに対し、新たな前文は正しい日本語で、平易でありながら一定の格調を持った文章とする。
2.前文に盛り込むべき要素
- 国の生成
- 国の原理
- 日本は国民が主権を有する民主主義国家であり、国政は国民の信託に基づき、国民代表が担当し、成果は国民が受ける。
- 自由、民主主義、人権、平和の尊重を国の基本理念とする。
- 我々は自由、民主主義、人権、平和を基本理念とする国を愛し、その独立を堅持する。
- 日本国民は人権を享受するとともに、広く公共の福祉に尽力する。
- 国の目標
- 結語
安全保障及び非常事態
1.戦後日本の平和国家としての国際的信頼と実績を高く評価し、これを今後とも重視することとともに、我が国の平和主義の原則が不変のものであることを盛り込む。さらに、積極的に国際社会の平和に向けて努力するという主旨を明記する。
国民の権利及び義務
1.権利と義務規定について
「個人の権利には義務が伴い、自由には責任が当然伴う」ことを言及する.
2.「公共の福祉」について
- 現行の「公共の福祉」の概念は曖昧である。個人の権利を相互に調整する概念として、または共同生活体として、国家の安全と社会秩序を維持する概念として明確に記述する。
- 「公共の福祉」の概念をより明確にするため、「公益および公共の秩序」などの文言に置き換える。
3.信教の自由について
国などが参加する一定の宗教的活動としては、地鎮祭への関与や公金による玉串料支出、公務員等の殉職に伴う葬儀等への公金の支出などが考えられる。なお社会的儀礼の範囲を超える多額の公金支出は認められない。
89条(公の財産の用途制限)のうち、「宗教上の組織若しくは団体の使用、便益、維持のため」公金を利用してはならないとの条文を変更する。
注 更に議論すべき項目
- 環境権など追加すべき新しい権利
- 家庭等を保護する責務など追加すべき新しい責務
国会
1.国会の構成について
国会は二院制とする
2.国会と内閣の関係について
3.議事の定足数について
議事の定足数の規定は廃止し、議決の定足数のみを規定する。
4.政党の位置づけについて
政党について憲法に位置付ける。
内閣
3.国会と内閣の間の抑制均衡について
衆議院の解散について、現行どおりとする。
司法
2.裁判所の組織、権限
憲法裁判所は、設けない。
財政
1.健全財政主義
健全財政に関する訓示的な規定を憲法上に置く。
2.予算が成立しなかった場合の対応
予算が成立しなかった場合に、必要最小限の支出が行われるよう憲法上に規定を置く。
3.複数年度予算の編成
財政民主主義の観点から単年度主義の原則は維持しつつ、年度を跨る手当てが必要なものについては、現在法律で規定されている継続費等の制度を活用し、その弾力的な運用で対応する。
4.私学助成
現行でも合憲とされている私学助成については、違憲の疑念を抱かれないような表現とする。
個人的ポイント
前文
- かなり完成形の文章・内容を意識した「素案」といった感じで,箇条書きにされた項目に接続詞を加え,助詞や文体の変更をすれば成立しそうだが,そのままだと
翻訳調,生硬である気はする。 自由民主党の主義主張を堂々と述べながら:国会で2/3の精力を持たない政党の主義主張を全面に押し出すという点,及び憲法制定権が国会でなく国民にある点からやや疑問。 「なぜ今,新憲法を制定するのか」という意義,新たな憲法を制定する:「改正」ではなく「制定」なんだ。 日本国民が多様な文化を受容して:「あたらしい歴史教科書をつくる会」からクレームが来そう。彼の会の歴史解釈だと,日本の文化が四方八方に伝播しているはず 多元的な価値を認め:昨今の世論(ネット中心に形成・流布される世論)とやや乖離気味のような国民の権利及び義務
- 自由と責任はともかく,権利と義務がセットなんて,高校生の論理では?
- 「公共の福祉」の明確化(文言置換)は一概に否定しないが,22条(職業選択・移転の自由),29条(財産権)はともかく12条,13条については,曖昧な方がいいのではないだろうか。明確化することで運用・判例に変更があるとは思えないが,裁判官諸氏の苦労が増えそうな気がする。-->
社会的儀礼や習俗的・文化的行事の範囲内であれば,許容されるものとする:現判例(目的効果基準)の原則合憲・例外違憲よりも,原則違憲・例外合憲の立場に近づく印象- 社会的儀礼の範囲を超えない額の玉串料支出の合憲化:個人的には問題なし。幾らを「多額」とするのかは司法判断?法律でも作りますか?
家庭等を保護する責務:何がしたいのかよく分からん。民法じゃ不服?同居・協力・扶助義務が違憲との論でもどっかにあるんだろうか国民の責務について,国民による権力抑制という(近代)憲法の意義にそぐわないというのも有力だと思うが,封建制から市民革命という流れの中で出来た近代憲法の原理・意義に新たな要素を付け加えた新たな形態の「憲法」を頭から否定する必要はないと思う。(この考えと,自民案に於ける「国民の責務」に賛同するかは全く別の話)
近代憲法に幾つかの要素を加味した,「現代型憲法」「国家・国民の基本法」というものを先進的に導入することも併せて議論してもよいと思うし,個人的にはそのような議論を期待する。(繰り返すが,自民の言う「責務」がそれにあたるか,それを入れる・容れるかは別問題)国会・内閣
司法
財政
- 健全財政主義の明記:政治的訴訟が増えそう
- 予算不成立の場合の対応:予算を政争の具にされない工夫が必要なんでは?(憲法レベルでする必要はないけど)