法律の基礎? 0.1

  1. 法律は「編」で構成されます.
    • 例えば,民法は第1編(総則)から第5編(相続)まで,全5編からなります*1
  2. 法律は「章」で構成されることもあります.「編」も「章」で構成されます.
    • 例えば,憲法は「前文」に加え,第1章(天皇)から第11章(補則)まで,全11(12)章からなります
    • 例えば,民法第1編(総則)は,第1章(通則)から「第7章(時効)まで,全7章からなります
  3. 「章」は時に「節」で構成されます.「条」のみで構成されることもあります.
    • 例えば,憲法第1章は,1条から8条まで,全8条からなります
    • 例えば,民法第1編第1章は,1条・2条の全2条からなります
    • 例えば,民法第1編第2編(人)は,第1節(権利能力)から第5節(同時死亡の推定)まで,全5節からなります
  4. 「節」は時に「款」で構成されます.「条」のみで構成されることもあります.
    • 例えば,民法第1編第2章第1節は,第3条のみからなります
    • 例えば,民法第1編第2章第2節(行為能力)は,第4条(成年)から第21条(制限能力者の詐術)まで,全18条からなります
    • 例えば,民法第2編(物権)第3章(所有権)第1節(所有権の限界)は,第1款(所有権の内容及び範囲)第2款(相輪関係)の全2款からなります
  5. 「款」は「条」で構成されます.「目」で構成されることもあります(例示省略).
    • 例えば,民法第2編第3章第1節第1款は第206条(所有権の内容)第207条(土地所有権の範囲)の全2条からなります
    • 例えば,民法第2編第3章第1節第2款(相隣関係)は第209条(隣地の使用請求)から第238条(境界線付近の掘削に関する注意義務)まで,全30条からなります.ここで,第1款の最後207条と第2款の冒頭209条の間で208条が削除されているのが,本項の1つのキモで,第1款・第208条・第2款の順になっているわけではありません(後述).
    • 例えば,民法第4編(親族)第3章(親子)第2節(養子)第2款(縁組の無効及び取消し)は第802条(縁組の無効)から第808条(婚姻の取消し等の規定の準用)まで,全9条からなります.ここで,802条から808条までで「全9条」となっているのが,本項のもう1つのキモで,別に簡単な引き算を間違ったわけではありません.(次の説明に続く)
  6. 法律は全て「条」で構成されます.
    • 「条」は時に削除されます.これが,上で第208条が抜けていた理由です.ある条文(ここでは民法208条)が削除された場合,後の条文の番号は繰り上がらず,207条の209条になります.(理由は後述)
    • 「条」は時に追加されます.これが,上で民法4編3章2節2款に9条あった理由です.ある条文とある条文の間に条文を追加する場合,例えばこの場合は806条の次に条文が追加されましたが,追加条文を807条として,元々の807条以降を繰り下げるのではなく,「806条の2」という条文を追加(挿入)します.一般に「枝番号」と言います.ここでは「806条の2」「806条の3」の2条が追加されたため,802条から808条までで,9(7+2)条になります*2.(理由は後述)
    • 「条」は時に追加が繰り返され,「◯条の3」と「◯条の4」の間に「◯条の3の2」が追加され,そこにさらに…といったように,際限なく増えていくことがあります
  7. 「条」は文または「項」で構成されます.
    • 「条」「項」は,「本文」と「但書き」で構成される場合,<柱書>と「号」で構成されるがあります.
    • 「条」「項」の番号は漢数字で表記され,「号」番号はアラビア数字で表記されます.第1項の前に項番号はつけられず,2項以降のみ,漢数字がふられます.*3
    • 例えば,憲法9条は,1項(戦争の放棄)と2項(武力の放棄)からなります.(1項の前に「一」はつきませんが,2項の前には「二」がつきます)
    • 例えば,憲法7条は,天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。という<柱書>と1号から10号までの「号」からなります.
    • 「号」がさらに<柱書>と「イ」「ロ」「ハ」・・・の項目で構成されることがあります.*4
    • 「項」も「号」も,「条」と同様に削除された場合に繰り上げられず欠番ができることや,「枝番号(「◯項(号)の2」など)」が挿入されることがあります. 実は,上の方では説明を省きましたが,「款」「節」などについても同様で,また枝番号にさらに枝番号が追加されていくこともあります.
  8. 条文は時に<本文>と<但書き>,<前段>と<後段>などに分けられます
    • 例えば,憲法44条は,両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。という<本文>と但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。という<但書き>に分けられます
  • 例えば,憲法5条は,皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。という<前段>とこの場合には、前条第一項の規定を準用する。という<後段>に分けられます
    • 3段(3文)からなる場合は<前段><中段><後段>,4段(4文)以上の場合は「第一段」「第二段」・・・のように分けられます
    • これらは便宜上のもので,判決文や法律書などで,条文の一部を指す場合にしばしば用いられますが,時に法律中でも用いられます.例えば「前項(前条)ただし書の規定は」という表現は星の数ほどあります.
  1. 法律には時に表や「附則」がつきます.
  2. ※ 法律は縦書きで公布されるので,文中「左」を使って「号」などを参照することがあります.裁判の判決も同様で,最近の法律は「次」を用いることが多いようですが,判決では未だに「右」が多用されているようです.(当サイト及び官公庁のサイトを含め,ウェブ上で引用・転載される場合にも,一般にこれを「下(上)」に改めることはしない)

今日のキモ

極めて些細なことですが,今日の勘所,上記のように,「◯条の2」「◯項の3」とされたり,「条」「項」の削除時に条番号・項番号が繰り上がらない理由です.


先に書いておくと,常に先に書いたような追加(挿入)が行われるわけではなく,繰り下げが行われることもあります.例えば,今国会に提出された「政治資金規正法の一部を改正する法律案」の1条では,「政治資金規正法」の22条2項を3項に,1項を2項に変更し,新たな1項を追加しています.*5


法律は,それ単体で利用・運用されることはまずなく,法律中で他の法律を参照したり,逆に法律中には書かれていないものの他の法律や政省令から参照されていたりします.また,1つの法律内でも,ある条文が他の条文を参照することは全く珍しいことではありません.
ある条文を削除する場合に,以降の条番号を繰り上げてしまうと,例えば208条を削除し,209条を208条,210条を209条・・・とした場合,209条以降で何らかの条文を参照している条文は全て書き直されなければなりません.どうせその法律を改正するのだから,一気に改正してしまえば済むことですが,先に書いたように,ある法律(の条文)を参照しているのはその法律の条文だけではなく,他の法律,政省令,時に条例によっても参照されています.
たった1条を削除するために,またはたった1条を追加するために,関連する全ての法律を改正しなければならないとすれば,その手間は…
それが理由です.
と勝手に推測しているのですが,違うんですかね…諸々確認できたら,タイトルから「?」を外します.


そうそう「手間」とは言っても,関連法令を見つけるのがメンドくさいといったレベルではなく,(専門家の方々は)影響法令・慣例法令は当然分かっています.でなければ改正なんてできません.
単に改正法案の文字数が増えるのがメンドくさい,告知が大変とかではなく,その法律を使う我々市民を気づかってくれていると考えるのが妥当でしょう.*6


最後に,以下は,やや乱暴な記述で,乱暴さは不勉強に基づくものです.繰り下げが行われる場合について.
先に挙げたような繰り下げは,主に「項」で行われます.
上で,法律を構成する各単位を書きましたが,法律は常に「条」を含み「条」が基本構成単位となります.
「条」より上の単位は,その役割は専ら複数の「条」を意味単位でまとめ上げるモノですが,(以下,続稿,予定…)


以上,他の記事用のメモ.「法律」と書きましたが,政省令や条例も基本的には同じです.「編」まで含むような長大な政省令・条例は(あまり)ないと思いますが.

*1:本論とは全く関係ありませんが,民法1編(総則)は2編〜4編全てに共通する事項,全てに適用される事項を定めていて,このように全体に共通する法理を頭に持っていって 最初にまとめて記述してしまう方式を「パンデクテン方式」と言います.「パンデクテン方式」で構成される法律は,最初の方に抽象的な条文が並ぶことになり,頭から順番に学んでいくと意外と分かりにくかったりします.

*2:ある法律が全何条で構成されるのかを知りたいと思っても,その法律の末尾を見て,最後の条番号が分かったところでどうしようもありません.

*3:かりに漢数字がアラビア数字に置き換えられていても,本文の次に並ぶ番号付きの項目が1から始っていれば「号」,「2」から始っていれば「項」の可能性が高いです.(1号が削除されている可能性が否定できないのですが,実例があるかどうかは分かりません.)

*4:これらの単位が分かりません.ご存知の方教えて下さい…

*5:なお「法律案」が成立すると「法律」となり,「政治資金規正法の一部を改正する法律案」の成立後の名称は「政治資金規正法の一部を改正する法律」になります.

*6:出版不況が著しく,数多くの出版社が潰れるような日が来たら,法改正の方法を変え,条番号の繰り上げ・繰り下げを行なうようにすれば,法律書の売り上げが飛躍的に増加し,一部の出版社はとてつもない恩恵を受けるでしょう.