誤報3:自民党憲法改正草案報道

ちなみに自民党は「改正(草)案」ではなく「憲法(草)案」と言っています.
以下,若干,疑問があった記述.

自衛軍保持を明記 自民が初の改憲草案

政教分離は社会的儀礼の範囲を超えないことなどを条件に最高裁判例に従う内容とした。

な〜んか,よく分からない表現.対応する自民党草案(条文)の変更点とその意味は分かります.産経の表現が分からないだけ.
社会的儀礼の範囲を超えないことというのが既に最高裁判例なので,「最高裁判例を条件に最高裁判例に従う内容」としか読めないんですが…

権利・義務では、現行の権利に加え、知る権利など5つの新しい権利を明記。他方で、国民は「公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う」と、自由と権利の乱用をいさめた。

他方で以下.この変更は,以前も書いたがその意味が微妙で…「公共の福祉」の言葉を変えただけとも読める.一方で草案に到るまでに自民党内で行われた議論の動向や,書面として公開されている「改正要綱」などを踏まえれば,語義の明確化以上の意味を持たせ自由と権利の乱用をいさめたとも解すことができる—逆に,党内論調がより強硬だったことを考えれば「諌めるまでには到ることができなかった」とも解すことができる.
法の意図,「起草者の意図」なんてのは,<書いた人がどう考えていたか(のみ)>で決まるわけではなくて,国会(委員会)での質疑なんかもふまえて,下手するとそんなのすっ飛ばして,他の法条との兼ね合いなどで(裁判・学説では)解釈されるものだから,要綱に囚われすぎるのもどうかなと思う.無論,要綱などによって伺われる自民党の<意図>を軽視するわけではない.

自民新憲法戦争放棄の条文維持、自衛軍の保持明記

全体の理念を示す前文は自主憲法との位置づけや国民が国を「自ら支え守る責務」も盛り込んだが、中曽根康弘元首相がまとめた保守色の強い素案の内容を大幅に変更。伝統文化などに関する復古的な表現は盛らず民主、公明党への配慮を優先した。

(前文に限らず)民主、公明党への配慮を優先したという政治・政局的な意味よりも,「世論への配慮」の要素が強いと思います.

最後まで調整が続いた前文は、小委員長の中曽根元首相が7日に示した素案を「情緒的だ」として変更。(略)また日本の伝統文化や明治憲法の歴史的意義などに関する記述を削除。象徴天皇制の維持や環境保護を掲げた。

しかし,中曽根・大勲位はかなり軽視されてますな,可哀想に…

また、国民に「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚」するよう求め、

産経とは違う部分を引用して,同様の点に注目.産経が引用した部分の(産経)解釈への疑義の余地は既に書いたが,こちらの毎日が引用した部分は,ちょっとヒドい.「自由には責任が」「権利には義務が」ってのは*1論語かなんからなら構わないですが,仮にも法律である「憲法」に書く記述としては安直すぎます.
毎日が同様に考えて,産経とは異なるこちらを引用したのかどうかは分かりませんが…

さらに国や自治体の宗教活動について政教分離原則を緩和、首相の靖国神社参拝や玉ぐし料支出を念頭に一定の宗教活動を容認した。

文面上緩和されてるのは事実だし,首相の靖国神社参拝や玉ぐし料支出を念頭においてるのもその通りだろうが,果たして念頭に置いたその目的の為に十分な改正であるかは疑問.判例の明文化以上の意味合いは持てず,参拝・玉串料についての裁判動向に影響を与えられるとは思えない.毎日さんが,(玉串料裁判はともかく)福岡地裁・大阪高裁の「違憲判決」が「目的効果基準」を逸脱したものと考えているのなら話は別ですが…

・「自衛軍」の保持を明記し、集団的自衛権や国際協力で武力行使を容認

集団的自衛権を容認」とした根拠(条文)が分からない…この毎日への記述のカウンターとして朝日…

自衛軍を明記、戦争放棄は条項維持 自民が新憲法草案

現在の政府解釈では行使を禁じられている「集団的自衛権」の行使の要件や範囲は、今後制定する安全保障基本法などで具体的に定めるとして結論を先送りした。

他,特にコメントなし.社説に取っておくつもりなのか,謙抑的な報道.読売.

自民が新憲法草案公表、自衛軍保持を明記

前文には「日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有」するとの表現で、自主防衛の精神を盛り込んだ。

う〜ん,その文言から自主防衛の精神に直結されるのはどうでしょう…

自衛軍の活動内容には、国際貢献や、災害など緊急事態への対応も加えた。政府が現行憲法では禁止されていると解釈している集団的自衛権の行使については明文化しなかったが、行使を容認する立場で、具体的な内容は「安全保障基本法」で別に定める。国連決議がない場合でも自衛軍を海外派遣できるかどうかといった詳細も、同基本法の規定に委ねる。

こちらも集団的自衛権については毎日と異なる解釈.朝日・読売が同じ見解だからというわけじゃないですが,この解釈が妥当でしょう(引用はしないが,日経も同様).そう言えば毎日は,米国最高裁判事の思想・政治的スタンスの解釈でも独自の道を行ってましたね…

国民の権利・義務関係では、「公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務」として、「国民の責務」を強調した。

ここは,産経と同じ.自由と権利の乱用をいさめたものでも「国民の責務」を強調したものでもないと解す余地は十分にあると思います.同じ辺りについて共同.

自衛軍保持を明記 自民初の改憲草案

「国民の責務」の条項を新設。前文に「帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務」をうたうなど、公益重視の内容となった。

まあ,こんなモンでしょ.
(各紙を取り上げた順番に全く意味はない.)


憲法草案自体についてはこれまでもチョコチョコ書いたし,今草案についても書くつもりなので,今は,その報道についてのみ*2

*1:「及び」の解釈によって,「自由にも権利にも責任が」「自由にも権利にも義務が」とも読める.

*2:テレビメディア各社の報道についても思うところはあるが,録画したわけでもなく,引用に正確性を欠かざるを得ないので書かない.端的に書いておくと…自民党が戦後,解釈改憲(拡大解釈)を進めたように,各局も拡大解釈が著しいですな,右も左も,って感じ.