誤報:自民党改憲草案

NHK夜10時のニュースを見ていたら,プチ誤報を発見.録画したわけでもなく,正確な文言まで書き起こせないが…
本日発表された自民党の新憲法草案について報じる際「戦力不保持を定めた現行の9条2項を廃止した.草案では9条2項で次のように安全保障について定めた」と言った感じの説明が入った.
画面には,草案の「9条の2」の文言が映っている.
何が誤報か分からない方,「誤報」の説明となる別項を書いたのでそちらを参照してください → 「法律の基礎? 0.1
「9条2項」でも「9条の2」でも世間の人は興味ないだろうし,実質的な差異は…まあ,鬼の首を取ったわけでもない.
ただ,そのような些細な誤用であっても,それを新憲法の内容・是非について語っていくであろう人(たち)にされると,今後行われるだろう議論の土台をはたして法律論が支えているのか,若干の不安を感じざるをえない*1


明日の社説は揃いそうな気もするが,ちょっと気になって現時点の各紙の記事をNewsNoNewsでチェック.
条番号に触れていない —間違いようがない— のは,時事・共同.
記者の直接の記述ではなく発言の引用なので微妙だが,毎日…

自民新憲法改憲が現実味…さまざまな意見交錯

20年以上にわたり、憲法改正論の理論的支柱として9条改正を主張してきた慶応大教授の小林節さん(56)は、今回の自民党草案について、基本的には良くできているとみる。「自衛戦争国際貢献のために軍事力を行使することはありうる。9条2項を変えて『自衛軍』を明記したことは評価できる」と話す。

9条2項を変えて…例えばある法律の改正法で「◯条×項を・・・と変える」と書いたら…まあ,揚げ足取りに近い.セーフ.
同じ毎日でも,こちらは完ぺき.

自民新憲法戦争放棄の条文維持、自衛軍の保持明記

焦点の9条は戦争放棄を定めた1項の条文を維持する一方で、戦力不保持を定めた現行の2項を削除。自衛軍の保持を明記し、現行憲法が禁じる集団的自衛権の行使を事実上容認した。
(中略)
最大の焦点の9条では8月の1次案段階で改定を検討した1項は現行憲法の条文をそのまま維持した。戦力不保持と交戦権の否認を定めた現行の2項は削除。自衛軍を明記し、「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため」との目的をうたって、集団的自衛権の行使を事実上容認した。また「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」として、国際協力への参加を規定。海外での武力行使を事実上認めた。ただ、いずれも具体的内容は新たに制定する基本法に先送りした。

「1項を維持」ではなく1項の条文を維持としてるあたりがポイント.朝日も完ぺき.

自衛軍を明記、戦争放棄は条項維持 自民が新憲法草案

現行の2項にある戦力不保持と交戦権否認を削除する一方で、別に9条の2を設け

読売・産経,完ぺきではないにしろ,明確な誤用もしてない.セーフ.

自衛軍保持を明記 自民が初の改憲草案

焦点の9条は、「戦争放棄」を定めた現行憲法の9条1項をそのまま堅持、「戦力不保持」を規定した2項は削除し、「国の平和と独立」を確保するため、首相を最高指揮者とする「自衛軍の保持」を明記した。1項の堅持は小泉純一郎首相が28日の協議で指示した。

自民が新憲法草案公表、自衛軍保持を明記

焦点の憲法9条は、戦争放棄をうたった現行の1項の文言をそのまま残した。そのうえで、戦力不保持を宣言した現行第2項を削り、日本の平和と独立と国民の安全を確保するため、首相を最高指揮権者とする「自衛軍を保持する」と明記した。

どアウトは日経.

自衛軍」の保持明記・自民新憲法草案

草案は現行憲法の補足を除く全10章、99条に対応する形で構成。安全保障の9条は平和主義をうたった現行憲法の1項をそのまま堅持。2項を全面改正し、軍隊の保有を明確にするとともに、首相を自衛軍の最高指揮権者と位置付けた。 (23:30)

先日の「キハン力」の件といい,どうも日経の政治部記者氏は…


しかし,やっぱり焦点は9条なんですな.私的な焦点は9条以外.
正直,9条(だけ)が変ったところで,または変らなかったところで,政治も世の中も(法学界も)大して変らないでしょう.
仮に維持しても国民世論が「解釈改憲」による拡大解釈を容認してしまえば…仮に変えても国民世論がその変更によって拡大された権限の行使を容認しなければ…結局は今と一緒.どちらにしろ,世論の動向をふまえて,緩やか変化するのみ.
読みが甘いですか? >左側の方々
考えがヌルいですか? >右側の方々
まあ,とりあえず,何が何でも変えてほしいとも,何が何でも維持して欲しいとも思いません.

*1:少し補足しておくと,所謂「オピニオン・リーダー」や「専門家(≠議員)」が誤用している場合には不安を感じるが,個々の国民にそんな知識を求めているわけではない.個々の国民は,自分の持つ知識と判断力と思考力の限度で,話し,聞き,考え,それぞれがベストと思うこと選択すれば十分.オピニオン・リーダーや専門家には,彼ら自身のベストと思う選択を提示することの他に,正しい知識・情報をフツーの国民に提供するコトを望みたいだけ.

誤報2

上記の「誤報」があるか確認しようと思って注目してたTBS・News23,こっちはホントの誤報じゃないか…?

自民党が改正案を条文の形でまとめるのは初めてで…」

ん?一次案は?二次案は?
まあ,これも,目くじらたてるほどのことでもないが.
ちなみに「9条2項」と「9条の2」は区別できてた.

誤報3:自民党憲法改正草案報道

ちなみに自民党は「改正(草)案」ではなく「憲法(草)案」と言っています.
以下,若干,疑問があった記述.

自衛軍保持を明記 自民が初の改憲草案

政教分離は社会的儀礼の範囲を超えないことなどを条件に最高裁判例に従う内容とした。

な〜んか,よく分からない表現.対応する自民党草案(条文)の変更点とその意味は分かります.産経の表現が分からないだけ.
社会的儀礼の範囲を超えないことというのが既に最高裁判例なので,「最高裁判例を条件に最高裁判例に従う内容」としか読めないんですが…

権利・義務では、現行の権利に加え、知る権利など5つの新しい権利を明記。他方で、国民は「公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う」と、自由と権利の乱用をいさめた。

他方で以下.この変更は,以前も書いたがその意味が微妙で…「公共の福祉」の言葉を変えただけとも読める.一方で草案に到るまでに自民党内で行われた議論の動向や,書面として公開されている「改正要綱」などを踏まえれば,語義の明確化以上の意味を持たせ自由と権利の乱用をいさめたとも解すことができる—逆に,党内論調がより強硬だったことを考えれば「諌めるまでには到ることができなかった」とも解すことができる.
法の意図,「起草者の意図」なんてのは,<書いた人がどう考えていたか(のみ)>で決まるわけではなくて,国会(委員会)での質疑なんかもふまえて,下手するとそんなのすっ飛ばして,他の法条との兼ね合いなどで(裁判・学説では)解釈されるものだから,要綱に囚われすぎるのもどうかなと思う.無論,要綱などによって伺われる自民党の<意図>を軽視するわけではない.

自民新憲法戦争放棄の条文維持、自衛軍の保持明記

全体の理念を示す前文は自主憲法との位置づけや国民が国を「自ら支え守る責務」も盛り込んだが、中曽根康弘元首相がまとめた保守色の強い素案の内容を大幅に変更。伝統文化などに関する復古的な表現は盛らず民主、公明党への配慮を優先した。

(前文に限らず)民主、公明党への配慮を優先したという政治・政局的な意味よりも,「世論への配慮」の要素が強いと思います.

最後まで調整が続いた前文は、小委員長の中曽根元首相が7日に示した素案を「情緒的だ」として変更。(略)また日本の伝統文化や明治憲法の歴史的意義などに関する記述を削除。象徴天皇制の維持や環境保護を掲げた。

しかし,中曽根・大勲位はかなり軽視されてますな,可哀想に…

また、国民に「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚」するよう求め、

産経とは違う部分を引用して,同様の点に注目.産経が引用した部分の(産経)解釈への疑義の余地は既に書いたが,こちらの毎日が引用した部分は,ちょっとヒドい.「自由には責任が」「権利には義務が」ってのは*1論語かなんからなら構わないですが,仮にも法律である「憲法」に書く記述としては安直すぎます.
毎日が同様に考えて,産経とは異なるこちらを引用したのかどうかは分かりませんが…

さらに国や自治体の宗教活動について政教分離原則を緩和、首相の靖国神社参拝や玉ぐし料支出を念頭に一定の宗教活動を容認した。

文面上緩和されてるのは事実だし,首相の靖国神社参拝や玉ぐし料支出を念頭においてるのもその通りだろうが,果たして念頭に置いたその目的の為に十分な改正であるかは疑問.判例の明文化以上の意味合いは持てず,参拝・玉串料についての裁判動向に影響を与えられるとは思えない.毎日さんが,(玉串料裁判はともかく)福岡地裁・大阪高裁の「違憲判決」が「目的効果基準」を逸脱したものと考えているのなら話は別ですが…

・「自衛軍」の保持を明記し、集団的自衛権や国際協力で武力行使を容認

集団的自衛権を容認」とした根拠(条文)が分からない…この毎日への記述のカウンターとして朝日…

自衛軍を明記、戦争放棄は条項維持 自民が新憲法草案

現在の政府解釈では行使を禁じられている「集団的自衛権」の行使の要件や範囲は、今後制定する安全保障基本法などで具体的に定めるとして結論を先送りした。

他,特にコメントなし.社説に取っておくつもりなのか,謙抑的な報道.読売.

自民が新憲法草案公表、自衛軍保持を明記

前文には「日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有」するとの表現で、自主防衛の精神を盛り込んだ。

う〜ん,その文言から自主防衛の精神に直結されるのはどうでしょう…

自衛軍の活動内容には、国際貢献や、災害など緊急事態への対応も加えた。政府が現行憲法では禁止されていると解釈している集団的自衛権の行使については明文化しなかったが、行使を容認する立場で、具体的な内容は「安全保障基本法」で別に定める。国連決議がない場合でも自衛軍を海外派遣できるかどうかといった詳細も、同基本法の規定に委ねる。

こちらも集団的自衛権については毎日と異なる解釈.朝日・読売が同じ見解だからというわけじゃないですが,この解釈が妥当でしょう(引用はしないが,日経も同様).そう言えば毎日は,米国最高裁判事の思想・政治的スタンスの解釈でも独自の道を行ってましたね…

国民の権利・義務関係では、「公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務」として、「国民の責務」を強調した。

ここは,産経と同じ.自由と権利の乱用をいさめたものでも「国民の責務」を強調したものでもないと解す余地は十分にあると思います.同じ辺りについて共同.

自衛軍保持を明記 自民初の改憲草案

「国民の責務」の条項を新設。前文に「帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務」をうたうなど、公益重視の内容となった。

まあ,こんなモンでしょ.
(各紙を取り上げた順番に全く意味はない.)


憲法草案自体についてはこれまでもチョコチョコ書いたし,今草案についても書くつもりなので,今は,その報道についてのみ*2

*1:「及び」の解釈によって,「自由にも権利にも責任が」「自由にも権利にも義務が」とも読める.

*2:テレビメディア各社の報道についても思うところはあるが,録画したわけでもなく,引用に正確性を欠かざるを得ないので書かない.端的に書いておくと…自民党が戦後,解釈改憲(拡大解釈)を進めたように,各局も拡大解釈が著しいですな,右も左も,って感じ.

メモ

刑事、民事を同じ裁判官で 被害者の会が新制度案公表

刑事事件の被害者が、公判の証拠を活用し迅速に民事訴訟を起こせる「付帯私訴制度」導入を求めている全国犯罪被害者の会(代表幹事・岡村勲弁護士)が28日、制度案要綱を法務省に提出し、内容を公表した。
同じ裁判官が刑事、民事を通じて共通の証拠によって審理できるようにすることで、時間や費用面で犯罪被害者側の負担を軽減するのが狙い。
要綱によると、刑事裁判に併せ、被害者側は損害賠償を求める訴状を、加害者側は答弁書を地裁にそれぞれ提出する。
刑事裁判の中で口頭弁論を開き、訴状と答弁書を陳述した後は、刑事事件の審理を先に進め、判決後に民事の審理に入る。賠償請求に伴う印紙代は不要とする。

う〜ん,実現にはハードルが幾つかありそう.
同じ裁判官というのを重視するのか,刑事、民事を通じて共通の証拠によって審理できるようにするのが重要か,時間や費用面で犯罪被害者側の負担を軽減するのが大事か,etc,どこかで取捨選択を迫られるのではないだろうか.諸外国はどうなんだろう.
それと逮捕〜起訴は3週間程で行われるわけで,犯行直後に逮捕された場合,心の傷が癒える前に弁護士探したり,弁護士と相談したり,イロイロとしなければならない,というのは心理的にどうなんだろう.被害者(遺族)である当事者中心の団体のはずなので,また選択制,つまり「付帯私訴もできるという制度と思われるので,今のところ第三者のオレが心配するのは余計なお世話かもしれないし,葬儀も含め余事にかまけることで悲しみなど心理的負担が軽減されるという例・考え方もあるし,何とも言い難いのだが,このニュースを見た瞬間に思った率直な感想ではある.他にも第一感では,例えば冤罪を訴える被告で,実際に冤罪だけど刑事で有罪宣告された場合,「同じ証拠」はともかく,「同じ裁判官」だと,心理的に更なる冤罪主張をしにくいのではないだろうかとか,印紙代は,気持ちは分かるけどそれを言い出したら他の訴訟でも判決で訴訟費用負担者が決められるまで保留してもいいんじゃないか?犯罪被害者を軽視するわけではないが,他の不法行為の被害者と比べてどこまで優遇すべきなのかとか…
ともあれ,近いうちに「ヨーロッパ調査報告書」に目を通そうと思いつつ,7月末で更新がストップしてるのが気にかかるがサイトで公表されることを願いつつ,メモ.