違憲判決

昨日の大法廷で久々の違憲判決,—昨日書いたとおり—地上波で大きく扱ったのはNHKのみ(たぶん).
さすがに新聞の方ではそれなりに取り上げられているようだが,やや不満.

  • 一連の「1票の格差」訴訟との差異
  • 数少ない違憲判決
  • ネット選挙解禁の動きがある公選法の見直しを加速させそう
  • (法学的には)「立法不作為」を違憲とした初判例と解釈可能か
  • (同じく)さらに国家賠償請求を容認した点

最後の2つはともかく,フツーの人でも興味を持ち得るような視点が幾つかあり—特に「一票の格差」との差異—,大きなニュースだと思うんだが…

手軽なところから.
本訴訟で原告側が上手かったのは,「一票の格差」訴訟と違って,選挙無効を訴えなかったことかな.
本訴訟で原告団が訴えたのは,以下.

  1. 確認請求・主位的請求
    • 平成10年法律第47号による改正前の公選法が,選挙権の行使を認めていない点において違法*1であることの確認
    • 同改正後の公選法が,衆議院小選挙区選出議員・参議院選挙区選出議員の選挙について,選挙権の行使を認めていない点において,違法*2であることの確認
  2. 確認請求・予備的請求(2審で追加)
  3. 給付請求
    • 国会が公選法改正を怠ったために*3,平成8年総選挙において投票ができなかったことに対する損害賠償

一審・東京地裁2審・東京高裁は,以下のように判示.

  • 給付請求について,立法不作為*4は違法〔国賠法1条1項〕とすべき例外的な場合*5には当たらない(理由なし)として棄却
  • 確認請求について,具体的な権利義務・法律関係の存否に関する紛争でなく、抽象的・一般的に法令等の違憲・違法をいうか、権利創設の判断を求めるものであり法律上の争訟に当たらず不適法として却下*6


で,上告審で見事覆されたわけだが,上告審判決の詳細の前に…


同様の選挙権・公選法に関するもので有名な「1票の格差」訴訟でも過去違憲判決は出ている.
しかし一連の訴訟では,「(選挙の)無効」を訴えるあまり,「違憲の疑いがある」とか「このままなら違憲」といった留保こそつくものの,結論は「有効」にしなければならない裁判官の苦悩が伺われた.
このような姿勢を「司法の自殺」「三権分立の軽視」と批判するのは簡単.しかし一方で,実際に「無効」とした場合,「無効」な議会によってなされた立法をどうするのか,裁判の長期化*7によって既に改選されてしまっているモノをどうするのか*8,現実的な問題が山ほど,山のように立ちふさがることになる.
推測にすぎないが,おそらくその点に「配慮」して「賠償」を求めた原告,その心意気に応えた裁判所,という構図なら,心温まる話.
尤も,本判決を根拠に改めて選挙無効確認訴訟を起こされたり,70万人と言われる現・在外邦人や過去に投票できなかった経験のある旧・在外邦人が一斉に国賠訴訟を起こすと,エラいことになる.
違憲判決を出した裁判所の心意気を汲み,原告(やその他の方々)は静かに法改正を見守ることを,そして政府・国会は速やかに公選法の改正を,一言で言うと大人の対応を期待.

今回の総選挙でも,近日「1票の格差」訴訟が提訴されると思われるが,政府・国会はいい加減何とかしないと危険.本判決にはそれくらいの重みがある.
ちょっとしたプログラム=アルゴリズムで容易に対応できると思うんだが…サンプル・プログラムでも作って公開すると,「技術的問題」という言い訳を阻止できるかな?

以上,上告審判決を未精読の状態で書いた雑感.
続く,たぶん.

*1:憲法14条1項,15条1項及び3項,43条並びに44条並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和54年条約第7号)25条

*2:同上

*3:立法不作為

*4:在外邦人の選挙権行使を確保するべく公選法改正を行わなかったという視点から見ると「立法不作為」,在外邦人の選挙権行使を妨げるような立法をしたという視点から見ると「立法作為」になる.本訴訟では,原告は「立法不作為」を主張し,裁判所もそれにしたがって判断した.

*5:国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けない

*6:所謂「司法消極主義」

*7:裁判が長期化する体質・制度を批判するのも簡単だが,こちらも実際問題として,名目上の「公平」に配慮すれば,誰が見ても勝ち負けのハッキリした裁判にも公平に時間を割かなければならないし,実質上の「公平」のみに配慮して,軽微な訴訟,勝ち負けのハッキリした裁判を切り捨てれば,結局別の問題となる.法曹人口を増加させることによる対策にしても,医者の育成に例えてみれば分かるように,専門家の育成には手間と時間がかかるし,軽々に人数だけ増やされても,市民にとって望ましい結果になるとは限らない.

*8:争訟対象となった選挙によって選ばれた議員が任期中であっても,「1票の格差」が徐々に縮小していることを考えると,それ以前の選挙全て(時効にかからない分)を無効にし得る判例となる