重畳的

マンションの耐震強度擬装問題でデベロッパーがマンション所有者(住民)のマンション(の部屋)を買い取り,重畳的に債務(住宅ローン)を引受ける形での「解決」を提案したそうで,「重畳的債務引受=連帯債務だぞ(気をつけろ)」と問題になってますが…
実際問題,連帯債務の形式でなければ,銀行(その他,ローン提供者)は債務引受なんか承諾しないでしょう。
明日にも倒産するかもしれない会社(以下・S)が,「Aさんのローン(債務)はウチが引き受けます」と言ったって,ローン提供者(以下,G)から見れば「オマエ払えんのか?」の一言で拒否されて終わり。


形式上,幾つかの方法があって

  1. SがGから新たに返済資金を借り,その借入金でSがAさんの住宅ローンを全額返済(第三者弁済)。
  2. AがGから借りている住宅ローンの債務をSが引き受け,以後,Sが住宅ローンを返済(更改)。

違いは,後者の場合,Sが金利・条件などそのままでAの地位を引き継ぐ。(前者では,金利などは新たにSとGの間で取り決める)
住民としては「どっちでもいいから,なんとかしてくれ」という所でしょうが,銀行にしたって「どっちでもいいけど,アンタ(S)に金は貸せないよ。だって返せないでしょ」ってところ。収入・職業などで債権の回収可能性を見越して貸し付けたAではなく,明日にも倒産が予想されるGに喜んで金を貸す/債務者を更改するメリットは,銀行には1つもないわけで*1


「重畳的」つまり,

  • AがGから借りているという関係はそのままで
  • Sが新たにAと併存する債務者(債権者はG)になり
  • AS間ではSが全面的に債務を引き受け(内部関係のみ)
  • 一方で,GはAS双方に対して債権をもつ

という関係にして,(住民=Aは)Gが誠実に債務弁済をつづけることを期待するしかないのが,実状でしょう。


別に「住民諦めろ」とか「デベロッパー賢い」と言いたいわけではなく,報道を見ていると,ローン提供者(銀行?)の視点がスッポリ抜けている。
住民が第三者弁済や,更改を望むのは当然のことでしょうが,債権者たる銀行がそれを承諾する義理はないし,現に承諾する見込みがない以上,そしてデベロッパーが買戻し資金を持ってない以上,「買取れ」と言う要求には連帯的債務引受の形式以上の返答が出て来る可能性はなかったのではないかと思う次第。
尤も,これが住民にとって受け入れがたい「対策(対応)」なのは自明で,つまり「買い取れ」という要求はそもそもが無茶だったって感じでしょうか(少なくてもデベロッパーの資産状態がある程度判明した現在の時点から見れば)。


一応,民法を引用。

474条(第三者の弁済)

  1. 債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。
  2. 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。

514条(債務者の交替による更改)

債務者の交替による更改は、債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。ただし、更改前の債務者の意思に反するときは、この限りでない。

474条2項,514条但書,「債務者(住民)の意思に反して(反する)」は今回は問題にならない(だろう)。
三者弁済(474条)の場合,ローンは単なる金銭債権なので「債務の性質」も問題とならない。ようはデベロッパーが「弁済」をできない(資金がない)。
更改(514条)の場合,「債権者と更改後に債務者となる者との契約」で「債権者」つまり銀行などが契約を締結しない。

*1:世間での評判は上がるかもしれないが…